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小売業界のアナリストが語る、20年先を見据えた小売業の3つの戦略方向性オンラインセミナー「みずほ銀行が読み解く中長期の小売市場展望」レポート

Hidekatsu Matsuyama - 2023年7月11日
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こんにちは。Mirakl マーケティングディレクターの松山です。

5月11日、Miraklはみずほ銀行 産業調査部の小売アナリストである土屋重人さん(写真左)をお迎えして、オンラインセミナー『みずほ銀行が読み解く中長期の小売市場展望 ~20年先を見据えた中長期戦略の方向性~』を開催しました。

土屋さんは、小売業界のアナリストとして、業界動向の分析や、業界構造とビジネスモデルの変化の可能性などのリサーチを行い、それらをもとに小売企業に向けた事業戦略の提案やレポートの作成、寄稿などを行っておられます。また、実際にご自身でも小売企業の経営に携わり、小売業の造詣が深い方です。

今回のセミナーでは、土屋さんにこれから中長期にわたって小売市場に起こると予想される変化や、それに対して小売企業が検討すべき課題、戦略の方向性について詳しくお話いただきました。セミナーに出席できなかったという方にも、ぜひ自社の戦略策定の参考にしていただければと思い、その模様をレポートします。

過去20年間で、デジタル化や消費スタイルの変化が起きた

土屋さんはまず、過去20年間の日本の市場について、軽く振り返りを行いました。 ここ20年で、日本の人口は2008年をピークに減少に転じ、その一方で65歳以上の人口割合は19%から29%になるなど、少子高齢化が進みました。2007年には初代iPhoneが登場し、そこからスマートフォンが瞬く間に普及して、現状の普及率は96%、EC化率は10%近くまで拡大しています。さらに、こうした環境の変化に合わせて、消費スタイルも変化してきました。 では、今後20年間でどのような変化が起きるのか。土屋さんは、小売市場を取り巻く環境の変化について、いくつかの図表やグラフを用いて解説を行いました。

土屋さんが見通す、小売業界のこれからの20年

■2040年の小売市場は

小売業販売額は、2025年以降に総世帯数の減少の影響が大きく表れ始め、2040年に向けて市場が大きく縮小していくことが予想されています。また、高齢化によって生活必需品などの基礎的支出の割合が増加し、消費の質的な変化も起きると考えられています。

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■少子高齢化が、小売業に与える影響

高齢者が無理なく移動できる距離をまとめたデータと、小売業の各業態の大まかな商圏範囲を掛け合わせると、地方都市圏においては、高齢になるにつれて食品スーパーにたどり着くことが困難になる消費者が増えることが予想されるといいます。

「このような状況下で小売企業に求められるのは、生活圏内でのワンストップショッピングや宅配移動販売といった小売機能。それに加えて、移動手段や高齢者の見守りなど、地域課題に向き合ったソリューションの提供も必要とされていくことが考えられます」(土屋さん)

次に、国立社会保障・人口問題研究所が今年4月に発表した人口の将来設計を見ると、2040年の生産年齢人口は2020年に比べて約17%減少するとされています。つまり、供給面では働き手の不足によって人件費が増加し、需要面では市場縮小によって売上高は減少するため、損益分岐点が悪化していくことが想定されます。

それに対し小売企業は、「生産性向上に真剣に取り組むことが必要になる」と土屋さん。「生産性向上にあたっては、総労働時間の削減や販売効率の改善のほか、販売チャネルの拡大や新たな収益の創出など、ビジネスモデルの変革で粗利率の改善につなげていくことも必要になる」と戦略の方向性を示唆しました。

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■デジタル化による消費者行動の変化

デジタル面においても、消費人口に占めるY世代以下(デジタルネイティブ以降)の人口の割合が増すにつれ、社会におけるデジタルサービスの浸透は加速していくといいます。また、2022年には40~50代の約7割がネットショッピングを利用していることから、20年後の高齢者はネットショッピングに親しんだ人が多くを占め、消費者全体のデジタル化がより進むことが想定されています。

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これからの小売企業を左右する、2つの競争軸

続いて土屋さんは、今後も地方の過疎化は継続していくこと、それによって地方郊外地域における小売店舗は、商圏人口が維持できなくなる可能性が高いことに言及。一方で、都市部においては人口減少のペースは緩やかであり、大きな市場を取り合う競争が激化していくことを見通し、「都市部における小売業界の競争軸は、消費者にとっていかなる価値を提供するかで、大きく2つの軸に分かれる」と語りました。

1つは、ロジカルな価値です。これは、家から近い、価格が安い、品揃えが豊富といった定量化が可能な価値で、大手企業が優位に立ちやすい競争軸だと言えます。 競争力を左右するポイントは、消費者にとっての利便性をいかに向上させられるか。模倣が困難な利便性を提供できれば、高い顧客ロイヤリティを獲得できる可能性が高まりますが、そうでなければ過当競争にもまれ、収益性が低下する可能性があります。「メンバーシッププログラムなどを用いてロジカルな価値を多く提供し、この企業やサービスと繋がっていないと損だと思わせるような関係性をつくり上げることが重要」と、土屋さんは戦略のポイントを語ります。

もう1つの競争軸は、エモーショナルな価値です。これは、個人にとって特別な意味がある、自分の好みや世界観に合うといった情緒的なつながりの価値で、定量化や単純比較がしにくいものです。この軸における戦略のポイントについて、土屋さんは「世界観のコモディティ化を避けるためにも、たとえば商品のアソートメントにおける基準が明確で信頼のおけるものか、環境への配慮を標榜するだけではなく具体的なアクションとして実行しているかなど、本物であることをいかに体現できるかが重要になります」と話しました。

競争激化が見込まれるロジカルな競争軸については、利便性を向上させ続けているECプラットフォーマーや、高頻度の顧客接点を握るコミュニケーションプラットフォーマーなどに顧客接点を依存してしまうことが特に脅威になり得ると考えています。また、こうしたプラットフォーマーにはイノベーションを起こそうとする企業文化が根付いていることから、リアル企業にとって競争環境が一変してしまうリスクもあるといいます。

こうした環境の中で、リアル企業がロジカルな競争軸で戦うためには、「商品の見つけやすさ、デジタルチャネルの使い勝手、パーソナライズ、品揃えの豊富さなど、特にECプラットフォーマーに見劣りする部分をDXによって強化していく必要がある」と指摘しました。

リアル店舗を持つ小売企業がとるべき3つの戦略方向性

最後に土屋さんは、これまで述べた市場環境や競争環境を前提とした場合に、リアル店舗を展開する小売業が目指すべき戦略の方向性について話しました。

戦略は、都市部と地方部の課題や市場環境を踏まえて、3つが想定されるといいます。1つ目はマーケットプレイス型ECの展開、2つ目はDX機能の内製化、3つ目は持続可能な地方の流通インフラ構築への関与です。

まず、1つ目の「マーケットプレイス型ECの展開」については、「市場規模の大きい都市部においては、利便性を磨き込むために、マーケットプレイス型ECの展開が有効」と語ります。マーケットプレイス型ECとは、第三者のセラーも販売を行うモール型のECのこと。マーケットプレイス型ECを展開する企業は、そこで自社商品を売りながら、自社では取り扱っていない商品を販売する第三者のセラーも取り入れることで、EC上でのワンストップショッピングを実現できます。

欧米の大手小売企業では、ここ数年で自社在庫型のECからマーケットプレイス型ECに転換を図る傾向が見られています。マーケットプレイス化を支援するスタートアップが、Miraklを始めとして複数誕生してきていることも、その追い風となっています。

昨今注目されるリテールメディアについても、「マーケットプレイス事業の拡大が、その成長を支える要因の一つになっている」と土屋さん。マーケットプレイスのセラーが増加すれば、その中で販促のための広告利用が増え、流通総額も拡大します。さらに、消費者の利用やトラフィックが増えれば広告メディアとしての価値が向上し、セラーではない外部企業もそのマーケットプレイスへの広告出稿を積極的に行うようになるといった構造で、新しい収益源は急速に増大していきます。

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しかし一方では、Amazonや楽天など、巨大なプラットフォーマーがすでに存在しています。土屋さんは、その中で自社のマーケットプレイスが生き抜くための戦略を2つ挙げました。

1つは、世界観や理念をベースにして特定の顧客セグメントをターゲットにする、エモーショナルな方向性の戦略です。例として挙げられるのは、環境に配慮したサステナブルな商品やオーガニックな商品など。この場合は、商品の選定やコーポレートアクションによってその世界観や理念が本物であることを体現し、顧客の信頼を得たり、世界観や理念に沿ったセラーを引き寄せたりすることが、競争力の強化につながります。

もう1つは、リアル店舗のネットワークを活かして、差別化可能な利便性を追求するというロジカルな方向性の戦略です。ECのセラーには店舗を持たない事業者も多いため、マーケットプレイスとリアル店舗を連携させることで、セラーに対して、顧客への商品訴求や認知向上、店舗受取、返品対応といったサポートの拡充が図れます。また、消費者に対しても、商品の実物の確認や柔軟な受取、返品対応など、顧客体験の向上が図れるようになります。

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2つ目の戦略方向性である「DX機能の内製化」については、「内製化すべき領域と、市場からサービスを調達してまかなう領域を適切に見極めた上で、中長期的に競争力の源泉になるような領域については、内製化を進める必要がある」と、土屋さんは語ります。

内製化すべき領域は、技術的な差別化が図れる場合や、内製した仕組みをソリューションとして外部に販売していく場合、事業スピードの向上やコストコントロール能力の向上が見込める場合などが挙げられました。

3つ目の「持続可能な流通インフラの構築への関与」とは、市場の縮小や働き手の減少が起きている地方において、特に食を中心とする流通インフラの維持が大きな課題となることから、その解決のために流通小売業としてとりうる戦略を示しています。

店舗の運営維持が厳しいルーラル(地方)エリアでは、行政や協同組合組織が運営主体となって、商品を販売するという小売機能と農産物の卸売りの窓口になるという卸売機能を一体的に提供するというモデルが、現実的なあり方として考えられます。その際、流通小売業としては、商品の卸売りや店舗運営のノウハウ、DXソリューションなど、小売を支援する機能を提供することに加え、地方農産物を都市部に流通させたり、自社の商品開発に活用したりといった形で、地域との協業や社会課題解決への貢献ができると考えられます。

以上のように、土屋さんには、2040年に向けた需給動向や競争環境の変化、そしてそれを前提にしたリアル小売業の戦略方向性をお話しいただきました。

Miraklは、戦略方向性の1つ「マーケットプレイス型EC」の構築をサポートします

Miraklでは、土屋さんの話の中で3つの戦略方向性の一つとして登場した「マーケットプレイス型EC」を構築するためのソリューションを提供しています。

改めてお話しすると、自社でマーケットプレイスを運営する利点は、自社商品だけでなく他社の商品も販売できること。それによって商品のラインナップ数を飛躍的に増やし、ターゲットとなるお客様を広げて集客力を上げ、売上を伸ばすことができます。また、他社の商品が購入されたときには、その販売手数料も自社の収入源となります。

ほかにも、世界観の確立によるブランド価値の維持向上、LTVの最大化、そして大量の顧客データの獲得も可能です。その顧客データは、将来のマーチャンダイジングや投資先の判断に役立てることができます。

マーケットプレイスの導入効果として最も大きいのは、持続可能性の高い経営ができることです。物流に対する投資や不良在庫を抱えるリスクを最小化しながら、売上を伸ばしていくことができます。

Miraklのソリューションを導入する際は、すでに活用されているECシステムを刷新する必要はなく、あくまでもそこにマーケットプレイス機能を追加するイメージとなります。マーケットプレイスはプラットフォームビジネスですので、利用者が多ければ多いほど利便性が上がり、それが事業の成長にもつながっていきます。競合他社よりもいち早く始めることが成功への第一歩だと言えます。

ぜひ今回の土屋さんのお話も振り返りながら、次なる戦略としてマーケットプレイスの導入をご検討いただければと思います。

最後に

今回、土屋さんのお話をお聞きして、小売業全体の課題と可能性の両方を見たように思います。私はEC業界に数年いますが、リアル店舗に関しては正直わからないことが多いです。かつてのECはリアル店舗を補完する1つの販売チャネルとしての位置付けに過ぎませんでした。しかし、今はCRMや新たな収益の柱として、リアル店舗と共に進化を遂げようとしているところに、大きな可能性を感じました。 今回のウェビナーは、オンデマンドでも配信しています。ぜひご覧ください。

マーケティングディレクター
Hidekatsu Matsuyama,
マーケティングディレクター

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